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名古屋高等裁判所 昭和32年(ネ)50号 判決

控訴人 宗教法人天元教名古屋支部教会

右法定代理人代表役員 難波寿一

右代理人弁護士 中村又一

被控訴人 牧田亀

右代理人弁護士 加藤博隆

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し名古屋市千種区南明町二丁目六十三番地宅地二百三十七坪七合九勺(土地所有者松林寺)の中控訴人の借地と、被控訴人の借地との境界線が同宅地上の控訴人所有家屋番号第三十五番木造瓦葺平屋建居宅(建坪三十三坪九合)の東北側の土台コンクリートの東北端より東北方へ三尺距りたる直線の延長線であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は左記控訴代理人の陳述の外原判決事実摘示と同一であるから之を引用する、

控訴代理人の陳述、

一、本訴請求は借地境界を定める形成判決を求める趣旨であつて借地確認の点は別訴が繋属中である、

境界の形成を求むる境界訴訟は所有権又は本権確認の訴、又は原告が主張する一定線が境界線なることの確認を求むる訴ではなく両隣地間における境界の争議を根絶し相隣者の権利状態を迅速に平安鞏固ならしめる目的を以て境界線を創設的に定むる判決を求める訴である、そしてかような境界訴訟は相隣せる土地所有者の場合だけに限るべきではなく、相隣せる借地権者の間においても其の借地の境界に争ある以上創設的に之を定めることをちゆうちよすべき理由はない、

二、請求の趣旨中物置小屋其の他の建造物の収去を求める部分を全部削除する。

証拠として控訴代理人は甲第一、二号証を提出し原審証人肥田史郎、服部新一、難波寿一の各証言、検証の結果を引用し乙第三号証の成立を認め其の他の乙号各証の成立は不知と述べ、被控訴代理人は乙第一乃至三号証を提出し原審証人早田仁作、坪井忠雄、牧田とめ子の各証言、被控訴本人訊問の結果、検証の結果を引用し甲第一号証の成立は不知、同第二号証は署名捺印のみ成立を認め其の他の部分の成立は不知と述べた。

理由

相互に隣接する土地所有権の境界につき相隣者間に争あるか又は之が不明なる場合に其の境界創設の訴を提起し得べきことは所謂相隣者間の境界のみにかかる訴訟として沿革的に認められているところであるが、かような境界創設の訴は相隣する土地所有権の境界についてのみ認められるのであつて本件の如く土地の賃借人が相隣する場合其の賃借人が賃借地の境界創設の請求を為し得べきものではない。蓋しかような特殊創設的な請求は沿革的な根拠乃至特に之を許容する法律の規定を要するところ訴を以て賃借地境界創設を請求し得べき法律上の規定はないからである、

そして控訴人の本訴請求は賃借権の範囲確認の請求ではなくて相隣せる借地人として借地の境界の創設的確定を求めるというのであるから、其の請求自体理由がなく之を棄却すべきである、

原判決は控訴人の請求を排斥するについて「土地所有者間の境界訴訟の如くに境界線を創設することは出来ないものと解せられるから」との理由をも挙げているから結局控訴人の境界の創設的確定請求を棄却しているのであつて正当である、

仍て本件控訴を棄却すべく民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い主文の如く判決する

(裁判長裁判官 山田市平 裁判官 県宏 小沢三朗)

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